90年だったかな、大阪の緑地公園駅にある天牛書店というお気に入りの古本屋で見つけた、東山魁夷『コンコルド広場の椅子』という本に魅せられ、長野の東山魁夷美術館へ絵を見に行きたいと思った。『コンコルド広場の椅子』は東山魁夷氏が、パリにいたときに水彩で描いた絵本のようなもの。その空間と、まぶしいような色彩。パリにも行ってみたいと思ったし、もっと東山魁夷氏の絵を見てみたいと思った。その初冬、レコード会社と契約し、しばらく自由な時間とれないかもしれないと短い旅に出た。
長野市に行く途中、安曇野で一泊し辺りを散策した。旅のしおりに書かれた場所を何カ所か巡ってそれなりに楽しんだ後、車で林の中の道を進むと、安曇野絵本館という書かれた小さな木製の看板を見つけた。その案内に導かれて行った森の中に立つ絵本館。子供のものである絵本を大人にも開放したいとオーナーが自力でたてた絵本館でした。その時、ちょうど、ポーランドの作家、スタシス・エイドリゲヴィチウスの原画展が開かれ、その絵にとても惹かれ、そこから生まれた音もその後のレコーディングに影響したほど。展覧会の最後には、お茶が振る舞われ、きらきらと目を輝かせて微笑むオーナーと何時間も話し込んでしまった。
音楽で生きて行く上で、あの場所は、ある意味原点のような場所で、ことあるごとにそこを訪れては、初心を思い起こしたり、新たに経験したものを整理する時期に訪れたくなる大切な場所だった。今回の絵本とそのサウンドトラックという作品は、ある意味、どこかで、あの場所へ再び辿り着きたいとどこかで思っていたように思う。
先日、絵本館のオーナーに、今回の作品
『Flight』をお送りし見てもらった。そして、置いて頂けることに。が、7月6日を最後に絵本館を閉じるとの報告を受けた。実は、前回に行った時に、もしかするとそろそろ閉じるかもしれないと聞いていた。その時が来たことを知って寂しくてしようがない。だが、20数年、定休日以外をずっと絵本館で過ごされたオーナーご夫妻、この辺で、少し休んで旅に出たいとのこと。いいですね。僕としては、いつまでも存在して欲しい特別な場所ですが、それは、メランコリックであり、わがままというもの。自由に羽ばたいてもらいたい。
僕の作品が、あの絵本館に置かれることは、僕にとって本当に嬉しく特別なことです。あそこから、始まった音楽が、あそこへ還る、そんなふうにも思える。あと、2ヶ月足らずではあるけれど、間に合って良かった。
安曇野絵本館