北本朝展(国立情報学研究所)さんによる、震災の記憶を振り返るための「静かに動く年表」、
それが311メモリーズの音楽を担当させて戴きました。
『2011年3月11日を忘れないために、
私たちはどうすればいいでしょうか?
あれほど衝撃的だった震災の記憶も、日々の生活の中で、
徐々に風化していくことは避けられません。
そんな震災の記憶を振り返るための「静かに動く年表」、
それが311メモリーズ(東日本大震災メモリーズ)です。』
企画・データベース構築
北本朝展(国立情報学研究所)
UIデザイン・プログラミング
緒方壽人(ON THE FLY Inc.)
音楽
松井敬治
---------------------------------------------------------------
あれから、1年と半年が過ぎました。長い春と夏、そして秋冬を越し、2012年を迎え、そしてまた夏が終わろうとしています。
東京に暮らしている僕にとってさえ、あの日を境にして、僕から見える世界は、全く様相を変えました。あの頃の記憶をたぐるには、一日一日が、重く長く、どの出来事がどの日だったのかは、混沌としています。このサイトを眺めることで、その中の、いくつかがまた繋がることもあります。また、僕の内側から見ていたあの時の日本とは別に、外の世界、ニュースとなった出来事が並列に流れ今知る事も多くあります。そのひとつひとつの出来事にもそれぞれに、人生があり、そして今も、それぞれの今が、現れては消えてゆく。まさしく諸行無常を、このサイトは表現しているかのようでもあります。
話はそれますが、記憶というものは、すこしずつどこかへ消えてしまいますが、自分の意思とは別にどこかの隅っこ隠れていて、ある日ひょっこりと出て来ることがあります。言葉に出来なくとも、その肌触りや、匂い、なんとも言えない感覚が蘇ることがあります。文字にすることの出来る記憶は数少なくなるけれど、そういう感覚のような記憶は体に染み入っているのかもしれません。他界した友人や親類を思う時、そういう感覚を、心の中に生きていている、と表現するのかもしれないですね。
最後に、この曲について。3.11の直後に、ピアノに向かい、ただ心に浮かぶ音をピアノに写し取ったものです。メモのつもりでしたので、録音もマイクを適当に立てただけ。演奏も、なんとなく頼りなげで、危うい。ですが、その後、練習して弾き直してみたのですが、あの空気を再び録ることは出来ませんでした。僕が、あの瞬間に何を思っていたかは、もう思い出せませんが、あの春の桜を思い出します。これがあの時の自分の真実のように感じます。
今も悲しみの中にいる人のことを思う時、その悲しみは時間が経てども、決して癒えることのないものだと思いますが、少しづつでも、安らぎが広がり悲しみを包むことを、ただ、祈るばかりです。
2012年9月11日 松井敬治