photo by Kaz Yoneda
『はじめての真空展』
この展覧会への音楽制作依頼を受けた時に、まず考えたこと。「真空にはどんな音が似合うのか...。ん?真空では音が伝わらないじゃないか…。」から始まった真空への音楽制作。
真空について調べてみた。
『絶対真空とは空間中に分子が1つもないこと。人工的に作ることのできる真空状態では、1立方センチメートル中に数千個の気体分子が存在する。外宇宙と呼ばれる銀河と銀河の間にも、気体分子が存在すると言われている。』とのこと。よかった、そこに音が存在する可能性は、0ではなかった。つまり、真空展に音楽を作ることの矛盾はかろうじて避けることが出来た。
現場は、昔、風洞実験に使われたという逆U字型のトンネルのような空間と長方形のフロアが繋がっている。U字のトンネルの入り口は、丸いデザインで、映画に出て来る宇宙ステーションのような感じ。音響設備を持ち込んで音の流れを実際に出してみた。予想通りかなり長い残響が残る。U字トンネルの方に1つ、長方形の方の空間の両隅にひとつづつ。合計3つのスピーカーを置く事にした。その昔、風洞実験で、風が通ったように、音が流れて、通り抜けるように。
さて、どんな音楽を創ろうか。”実”と”虚”。普段音楽を創る時は、ひとつづつ音を重ねて、”実”=”音”の方だけに意識を置いている。今回は、”虚”=”音のない瞬間”にも、同等に意識を向けてみよう。水墨画のように残された”虚”部分が、大切になる音楽を創りたいと思った。
スタジオで、前に2つ、後ろに1つのスピーカーを配し、実験?(作曲)をした。結果、4つのコンセプトが出来て、25分ほどの組曲(と読んでいる)が出来上がった。3つのスピーカーから同時に同じ音が鳴る瞬間はない。3つの音の直接音を同時に聞くことの出来るスウィートスポットはトンネルの入り口付近の1カ所。そこで、聞くと、3方向からの音が飛び交い、非日常な心地良さ(と望みますが)を味わう事が出来る。また、そこから離れてることで、聞こえて来ない音、遠くの遅れて聞こえて来る音、特別な音楽が生まれる。25分ほどの組曲、その場所にいる時に、ある曲のある部分が流れる瞬間は無二に等しい。場所と時間(音)が重なることで、それぞれの特別な瞬間が生まれる。
ピアノ、チェロ、とプログラミング。出来た音楽の全体像は、このところの僕の音楽とさほど変らない。しかし、真空、虚、ガラスに閉じ込められた空(くう)、宇宙の星と星の間になにもないとされている宙(そら)、そんな捉えどころの無いものへ思いを馳せて創った音楽は、両面白のリバーシブルのシャツを裏替えすほど、見た目は、大して変りはしないけれど、自分では、全然違うものになったような気がする。
身近にある真空から、最先端で、使われる真空状態、宇宙、そんな事を垣間みれる展覧会。音楽は、伏線のひとつだけれど、そんなことを考えながら生まれたあの場所、ある期間だけの音楽も、意識して貰えたら(or 無意識で感じて貰えたら) 幸いです。
Thanks for Kaz Yoneda and Mai Tsunoo
2015年6月1日 松井敬治
『はじめての真空展』
http://www.hayashi-fund.iis.u-tokyo.ac.jp/exhibition/events.php.